キルギス共和国における野生ハナバチ類の営巣生態と巣の構造
島根大学生物資源科学部 宮永龍一


はじめに

ミツバチ上科のハナバチ類は,ごく一部の例外を除き,成虫,幼虫ともに被子植物の花蜜と花粉を餌資源として利用する.被子植物の重要な送粉者として機能することから,生態系における「景観(landscape)」の維持や農産物の安定生産など,いわゆる「生態系サービス」の担い手として人間生活に大きな影響を及ぼすものとして知られている.
ハナバチ類の営巣習性は多様性に富む.大別すると自らの営巣空間を創出するタイプと既存空間を利用するタイプに分けられる.前者の多くは地中営巣性で,これに植物の材を利用するものが加わる.一方,後者は地上空間を利用するものが大半である.両タイプとも,多くの種類において営巣空間を細かく分割した「育房」と呼ばれる幼虫用の小部屋を作製し,ここに花粉や花蜜を貯食する.巣の構造はハチの分類群によってある程度の共通した特徴が見られる.また,営巣中の巣にはさまざまな発育ステージの幼態,成虫などが在中することとなり,その生活史や社会性があまり知られていないハナバチ類においては,未知の生態的情報を得る恰好の材料となり得る.
 このように重要なハナバチ類の巣ではあるが,その発見は容易ではない.とくに営巣活動初期を経過すると,造巣活動に伴うハチの巣外活動が目立たなくなり,よほど大規模な営巣集団でも無い限り,見過ごしてしまうことがしばしばである.今回のキルギス共和国における調査では,特定の地域を繰り返し調査することによって12種,22巣を発掘調査することに成功した.なお,大半の種類は専門家による同定を経ていないため,一部を除き種名は仮番号で表示することとした.また同一種の巣構造を重複して示している可能性もあり得る.


1.Anthophora sp.1

1)調査地の概要

本種の巣は2013年5月8日,チョルポン・アタ近郊のチョン・アクスー渓谷(図1)沿いの遊歩道で発見された.チョルポン・アタはビシュケク市から東へ約260kmに位置するイシククル州北部の中心都市でイシククル湖湖岸に位置する.チョン・アクスー渓谷はチョルポン・アタの西方約20kmにある天山モミなどの針葉樹が群生する渓谷である.本種の巣はチョン・アクスー川左岸の遊歩道脇(北緯42度46分,東経77度28分,標高1970m)の切通で発見された.巣が発見された切通は高さ3m程度で,道路に面した斜面にはこぶし大〜人頭大の岩石がわずかな土壌を挟んで隙間なく堆積していた(図2).このことから,一帯はかつての河川氾濫原の一部であったことがうかがえた.なお,ここで発掘した巣は1巣であった.
図1.チョン・アクスー渓谷

図1.チョン・アクスー渓谷

図2.巣を発見した遊歩道沿いの斜面

図2.巣を発見した遊歩道沿いの斜面


2)巣の構造

 巣は切通に堆積した岩石の間のわずかな土壌層に,法面に対してほぼ垂直に穿孔されていた.道路からの高さはおよそ1mであった.育房数は合計6個で,幼態のステージはいずれも卵であった.最初の育房群(No.1と5)は巣口からおよそ2.5cmの位置から発見された.育房のサイズは,長軸が9.52−14.25mm(平均11.90±1.58mm,N=6),短軸が5.51-6.19mm(5.80±0.32mm,N=4)であった.また卵長は4.4−5.29mm(4.85mm,N=2)であった.
育房は最大3個が直線的に配列され,さらにこの「育房列」が全体としては並列的に,3列にわたって配列されていた.育房の長軸の方向は,育房No.1,2,3,4,6は斜面に対してほぼ同じであったが,No.5だけはこれらに対してほぼ直角となっていた.また,育房No.1と5の育房口前およびNo.6の育房口前には空洞があったのに対し,他の育房ではこのような空洞はみられなかった.すべての育房は周囲の土壌に固着しておらず個別に取り出せたことから,単純に土壌を掘削して各育房を作製したのではなく,一端,大きく掘削された空洞内に土壌を充填し,形成されたものと推測された.
 育房内壁は白色の薄膜で被覆されていた.これは営巣メスによるDufour腺分泌物の塗布によるものと推定された.育房内には流動的な半液体状の貯食物が全体の2/3程度まで充填され,その上に卵が産付されていた.卵は固定されておらず,貯食物表面を浮遊できる状態にあった.
 



図3.カザフスタン国境へ続く道路

図3.カザフスタン国境へ続く道路
2.Anthophora sp.2

1)調査地の概要
本種の営巣地は2013年5月9日,イシククル州サリ・トロゴイから国境の山脈へ向かう道路沿いの斜面(北緯42度44分,東経78度48分,標高1900m)で発見された(図3と4).サリ・トゴロイは,チョルポン・アタの東およそ150kmにあり,北方の山脈によってカザフスタン国境と接している.いくつかの営巣地が丘陵の連なる放牧地帯を南北に走る未舗装路に沿って点在していた.

2)巣の構造

営巣地である斜面は一部が扇状に崩れており,巣は崩れた垂直面の一角(1m×0.4m)におよそ60巣ほどが集中して発見された.営巣地の土質は粒径の小さな乾いた粘土であった.営巣地では本種の他,Anthophora sp.1のメスが盛んに土壌を掘削し,造巣活動を行っていた.
発掘した巣は2巣で,それぞれの巣から発見された育房の数は1個と2個であった.巣は斜面に対してほぼ直角,すなわち水平方向に15−20mm掘削されたのち,そこから下方に向かってほぼ垂直に屈曲していた.この屈曲部から下方に育房等が作製されていた.巣口の直径は平均10.1mmであった.育房の前には「前室」があり,育房との間には明確なくびれが認められた.完成した育房はこのくびれの部分で育房栓により閉鎖されていた(図5).また,育房は極めて薄い育房壁(3.1mm)を有していたが,前室にはこれが無かった.このことから前室は単に掘削によって形成され,育房は掘削された坑内に細土を搬入し,これによって構築されるものと推察された.


図4.営巣集団が発見された斜面

図4.営巣集団が発見された斜面

図5.巣の断面.主坑末端部に育房がある.

図5.巣の断面.主坑末端部に育房がある
育房のサイズはいずれも平均で,全長が16.2mm,全幅が10.9mm,育房口直径が8.5mmであった.また前室の全長は10-15mmであった.発掘した3個の育房のうち,1個は完成育房で前室は水で練ったような土で埋められていた.育房内の幼態のステージは卵で,柔らかいペースト状の貯食物の上に直接,産付されていた.他の2個のうち1つは貯食中,他の1つは貯食前の完成育房であった.育房および前室内壁は滑らかで,表面はハチの分泌物の塗布により,黒く変色していた.ただし,貯食が完了した育房の内壁は全体として白いロウ状の被覆によって覆われていた.このような被覆は前室には見られなかった.おそらく育房は貯食直前に再度,分泌物による被覆が行われるものと考えられる.ロウ状の被覆は育房の底部で厚く,育房前方では薄かった.


図6.イシククル川沿いの道路

図6.イシククル川沿いの道路

図7.巣が発見された斜面

図7.巣が発見された斜面

図8.育房と貯食物

図8.育房と貯食物




2.Anthophora sp.3

1)調査地の概要

 営巣地は2か所あり,そのうち1か所はAnthophora sp.2と同じ場所で,本種の巣はA. sp.2の巣と混在していた.他の1か所は,2013年5月10日にイシククル湖南岸のイシククル州タムガとバルスクーンの間を流れる河川に沿って南進する道路脇の斜面で発見された(北緯42度6分,東経77度35分,標高1902m,図6と7).斜面の高さはおよそ1mで,拳大から人頭大までの岩石が堆積していた.土質は粒径の小さな乾いた粘土であった.巣は斜面の中ほどに散在していた.

2)巣の構造

 発掘した巣は3巣で,それぞれ1個の育房が発見された(図8).坑道はほぼ垂直の斜面に対して水平方向に掘削されたのち,ただちに下方に屈曲していた.育房はこの屈曲した最奥部に1個作製されていた.育房の前には形状が育房と類似した「前室」があり,前室と坑道および育房の境界部はくびれが認められた.育房のサイズはいずれも平均で,全長が17.4mm,全幅が11.7mm,育房口直径が8.9mmであった.また前室の全長は11mmであった.育房および前室内壁は滑らかで,ハチの分泌物による被覆が認められた.とくに前室後半から育房全体にかけては,より顕著であった.





図9.イシ・アタ川沿いの道路

図9.イシ・アタ川沿いの道路

図10.巣が発見された斜面

図10.巣が発見された斜面

図11.育房塊とそれを取り巻く空洞部

図11.育房塊とそれを取り巻く空洞部






3.Lasioglossum calceatum

1)調査地の概要

 本種の営巣地は,2013年5月15日にビシュケクの南東およそ80kmに位置する温泉保養地,イシク・アタ郊外で発見された(図9).巣はイシク・アタ中心部を流れるイシク・アタ川の左岸に沿って牧草地へ向かう小道沿いの高さ約0.5m,長さ約80mほどの斜面に散在していた(北緯42度35分,東経74度54分,標高1904m,図10).この斜面は家畜が土壌中の塩類を舐める場所らしく,巣の発掘中に羊,牛,ヤギなどが訪れていた.土質は砂の細粒からなり,表面は白く乾燥していたが,数センチ下は適度な湿り気があった.

2)巣の構造

 発掘した巣は2巣(巣1および2)であった.両巣とも営巣のごく初期にあたり,その巣型を判断することは困難であったが,Sakagami & Michener (1969)の巣型分類のIVaに該当するものと考えられた(図11).すなわち育房はクラスターを形成し,その周囲は不完全ながら空洞化が認められた.育房数は巣1,巣2とも1個で,いずれも貯食中であった.育房の形状はコハナバチ類に典型的なナス型で,底部はやや平であった.育房頸部はくびれており,育房内壁はこのくびれを除いてメスの分泌物による被覆が認められた.なお,巣2には前年の育房が土が充填された状態で5個認められた.このことから,本種ではメスの一部が旧巣を再利用することが示唆された.巣1の全長は142.5mmで,主坑(直径6.3mm)は巣口から56mmの位置で土中の石に当たり,これに沿って斜め下方向に掘削されていた.育房を含む空洞部は主坑からほぼ直角に分岐した分岐抗の末端部に作製されていた.主坑は分岐点からさらに下方に掘削されていた.育房を含む空洞のサイズは高さ12.9mm,幅18.5mmであった.育房は空洞上部から伸びた草の根にぶら下がった状態で,その一部が空洞の底部に細い土中を介して接していた.
 巣2の主坑(直径6.2mm)は斜面に対してほぼ直角,すなわち地表面に対しては水平方向に掘削され,巣口(直径4.6mm)から43个涼賄世脳緤に大きく屈曲していた.主坑の分岐はなく,また育房はこの上方に屈曲した部分に,側坑を介することなく接続し,新旧育房による育房塊を形成していた.上方に屈曲した主坑は,この育房塊を取り囲むように育房塊側方から後方に向けて下方に再度屈曲していた.本巣は前年由来の旧育房が存在したことから,継承利用巣と考えられるが,旧育房塊周囲の空洞部はあまり発達していなかった.



4.Halictus sp.1

1)調査地の概要

 本種の巣は上記したL. calceatumの巣に混じって発見された.したがって調査地の概要は上記のとおりである.

2)巣の構造

 発掘した巣の数は1巣であった.巣の構造はSakagami & Michener(1969)の巣型分類のIIIaもしくはIIIbに該当した.すなわち育房は側坑を介さずに,直接,主坑に接続するタイプであった.調査を行った時期は営巣のごく初期だったらしく,育房数は2個で,互いに近接して作製されていた.第1育房には完成した花粉団子のみが,第2育房には卵と花粉団子が認められた.育房はナス型で内壁はハチの分泌物による黒い被覆があった.また,育房内壁には長軸方向に細かな縦筋が認められた.カタコハナバチ属における人工巣を用いた巣内行動の観察から,このような縦筋はメスが育房内壁を尾節板で均す際に形成されることが知られている(宮永,未発表).発掘した巣内にメスの姿は見られなかった.巣口の直径は2.5mm,主坑の直径は4.5mmで,主坑は斜面から水平面に対してほぼ垂直に掘削され,末端部で緩やかに湾曲していた.巣口から盲坑端までの全長は73.6mmで,第2育房は巣口から38.5mmの位置にあった.育房の各部サイズは育房頸部が3.0−2.8mm,長軸(育房口〜育房底)が7.3−7.5mm,最大幅が4.9−5.0mm,育房口が3.5mmであった.また,第2育房から盲坑端までは31.0mmであった.

図12.アラ・アルチャ国立公園

図12.アラ・アルチャ国立公園

図13.営巣集団が発見された崖部

図13.営巣集団が発見された崖部
図14.育房作製中のメス

図14.育房作製中のメス
図15.主坑と育房

図15.主坑と育房


5.Anthophora sp.4

1)調査地の概要

本種の営巣集団は2014年6月5日にビシュケク中心部から南へおよそ30kmに位置するアラ・アルチャ国立公園内の河川敷に露出した崖で発見された(北緯42度36分,東経74度29分,標高1770m,図12と13).アラ・アルチャ国立公園は,アラ・トー山脈から流れるアラ・アルチャ川の渓谷に沿って整備された自然公園である.営巣地はアラ・アルチャ川左岸にある南に面したほぼ垂直の斜面(高さおよそ2.5m,長さおよそ10m)で,河川の浸食により形成された崖の一部である.営巣地は数年にわたって繰り返し使用されているらしく,ほぼ全面が本種の巣(旧巣)で覆われていた.営巣地を最初に訪れた6月5日の時点では,100個体前後のメスが群飛し,掘削できる場所を探索している状態であった.大半が営巣前であったが,一部は育房の作製を開始していた.育房に採餌しているメスを1個体のみ確認することができた.このため巣の発掘は本調査地を再度訪問した6月21日に行った.
 
2)営巣行動と巣の構造

a. 造巣行動
 6月5日の時点では発掘に適した巣が見られなかったため,営巣初期の造巣行動を観察した.本種の巣は浅く,ほとんどの育房が崖表面近くに作製されるため,造巣行動の観察は比較的容易であった.営巣地である崖は前述のとおり,ほぼ全面が旧巣で埋め尽くされていた.したがって営巣メスは,必然的に旧巣の一部を利用せざるを得ない状態にあった.メスは旧坑道壁を大腮で削り取り,育房よりも大きな空洞を形成すると,生じた土粒を前脚で掻き込むようにしてこの空洞内に送り込み,腹部末端の尾節板で小刻みに坑道面に押し付けつつ坑道内を前後に歩行して育房の形成を行った(図14).育房形成の最初の段階,すなわち育房底部を形成する際は,頭部を坑道奥に向けて上記した行動を繰り返し,底部が完成したのちは,頭部を巣口側に向けて同じ行動を繰り返した.育房を作製中の坑道内壁は周囲と比して明らかに湿っており,営巣メスに由来する分泌物が塗布されていることは明らかであった.育房が完成すると,営巣メスは巣口周囲に高さ5−10个曚匹痢屮ラー(巣塔)」を形成した.

b. 巣の構造
 前述のとおり巣の発掘は6月21日に行った.巣の数は崖垂直面に最も多かったが,崖下の地面(水平面)にも形成されていた.多くの巣を発掘したが,巣が密集していたため,その構造を正確に確認できた巣は2巣であった.垂直面の土壌は乾燥によって日干しレンガ状となっていた.土壌は砂質で,内部にはさまざまなサイズの小石が堆積していた.一方,崖下の水平面は,垂直面をハチが掘削した際に生じた土粒が厚く堆積し,軟らかな状態にあった.

図16.育房内の貯食物と表層に浮かぶ卵

図16.育房内の貯食物と表層に浮かぶ卵

 発掘した巣1は崖面から斜め下方向に向かって掘削されていた.巣口には高さ12.3mm,直径8.3mmの巣塔が形成されていた.巣塔部から最奥部までの深さは4−5冂度であった(図15).坑道(直径8.7mm)の末端部には育房1が作製され,その手間で分岐した坑道の末端部に育房2が作製されていた.さらに坑道は育房2とほぼ同じ位置で別方向に分岐し,盲端を形成していた.したがって本巣の育房数は合計2個となる.このうちの1個,すなわち育房1内には卵(バナナ型:4.2mm×2.2mm)と貯食物が認められたが,育房2は作成中の育房であった.卵は貯食物表層に生じた液体状の「上澄み」の上に浮いた状態で産下されていた(図16).育房の各部サイズは育房口が6.7−7.6mm,育房長軸が13.3−13.6mm,最大幅が9.3−9.4mmであった.なお育房1は幅4.4mmの土栓により閉鎖されていた.巣2は崖下の水平面に作製された巣で,坑道は巣口から斜め下方向に掘削されていた.巣内からは5個の育房が得られた.育房内の発育ステージおよび巣の構造から類推すると,ハチはまず主坑末端部に育房1を作製し,これが完成したのちに,巣口方向に向かって育房2〜5を作製したものと考えられる.育房を作製する際は,まず大きな空洞を掘削し,その後,掘削によって生じた土粒を空洞内に充填し,育房を形成したものと考えられる.これは育房周囲の土壌が極めて柔軟で,明らかに周囲の土壌とは異なっていることから明らかである.なお,育房内の幼態のステージは育房1〜4が若齢幼虫,5が卵であった.いずれも巣1と同様,貯食物表層に生じた液体状の「上澄み」の上に浮いた状態であった.






6.Halictus sp.2

1)調査地の概要

図17.遊歩道沿いの草原

図17.遊歩道沿いの草原

図18.営巣地の裸地

図18.営巣地の裸地

 本種の営巣集団は2014年6月6日に,ビシュケク南部のコイ・タッシュ村からアラムダン川に沿って南へ20kmほどにある草原で発見された(図17).営巣地(北緯42度35分,東経74度39分,標高1865m)はアラムダン川右岸の東に面してなだらかに傾斜した草原の南端部,遊歩道に沿った日当たりの良い裸地の一角(およそ3m×15m)にあった(図18).営巣地付近にはアラムダン川に流入する小川があり,また遊歩道に加え,放牧された家畜の通り道などが交差していた.営巣地が裸地状であったのは,人畜による踏み圧によるものと推察された.営巣地は小石交りの砂地で,腐葉土等はほとんど含まれていなかった.巣は比較的狭い範囲に密集しており,最大密度は20巣/屬曚匹任△辰拭ケ珍稈呂鮑能蕕頬れた6月6日の時点で,すでに多数の営巣メスが見られた.発掘は6月6日と6月22日に行った.

2)巣の構造
図19.主坑に直接接続する育房

図19.主坑に直接接続する育房
図20.育房内の幼態

図20.育房内の幼態

 発掘した巣の数は66日,622日ともにそれぞれ2巣であった(巣14).巣の構造はSakagami & Michener (1969)の巣型分類のIIIに該当した.すなわち育房は,側坑を介することなく主坑に接続されていた(図19).主坑の長さは平均199.0mm(最短140mm,最長290mm)で,鉛直方法にほとんど屈曲することなく掘削されていた.また巣口および主坑の直径は,それぞれ平均2.5mmおよび4.7mmであった.育房は巣口から4050个凌爾気砲泙座1育房が,そこから下へ第2育房〜が作製された.このことから育房の配列はコハナバチ類で典型的はprogressive type,すなわち上から下へ作製されるタイプであった.育房は集中的に配置されており,たとえば巣2では,巣口から4065mmの間に全12育房が作製されていた.このため育房間隔はきわめて短かった.主坑の分岐は4巣中1巣(巣2)で見られた.

育房はコハナバチ類に典型的なナス型で,頸部を除き内面は滑らかに磨かれ,分泌物によるコーティングが施されていた.育房の各部サイズは次の通りである(いずれも平均).育房入口:2.69mm,育房長軸長(頸部を除く):8.19mm,育房頸部長:1.83mm,育房全長(長軸長+頸部長):9.92mm,最大幅:4.54mm.育房数は66日に発掘した2巣(巣12)がそれぞれ3個と12個,622日が9個と6個であった.育房内ステージは貯食中のものから若齢幼虫,前蛹まであった.興味深いことに老齢幼虫は巣266日発掘)と巣4622日発掘)から,それぞれ1個体(成熟幼虫と前蛹)が得られた(図20).622日発掘の巣の育房数が10個以下と少なく,しかも老齢幼虫がほとんど含まれていなかった要因として,‥係不順で採餌活動が順調に行われなかった,多化性で622日に発掘した巣は66日の次世代によるものであった,という2つの可能性が考えられる.調査地が標高2000m近くの高地にあることや,山岳地帯で天候が不安定であることを考え合わせると,,硫椎柔が高いと考えられる.なお,6月6日に発掘した2巣(巣1および2)はいずれも複メス巣(確認した在中メス数はいずれも2個体)であった.社会型は不明であるが,巣1では3育房中2育房が貯食中であったことから,巣を共有するものの,共同育子およびカーストが存在しない準社会性であった可能性が示唆される.同様に巣2では全12育房中,貯食中育房が2個,卵が5個あった.また本巣では分岐坑があり,発掘時にはそれぞれの盲坑端にメスが1個体ずつ発見された.本巣も準社会性が成立していたものと推察される.ただし6月22日に発掘した2巣はいずれも単メス巣であったことから,複メスは営巣初期の一時的な現象であるのかもしれない.





7. Andrena sp.1

1)調査地の概要


図21.育房内の花粉団子と卵.側坑は土で埋められている

図21.育房内の花粉団子と卵.
          側坑は土で埋められている
 調査地は上述のHalictus sp.2と同じである.2014年6月22日に1巣を発見し,これを発掘した.

2)巣の構造

 本種の巣は前田(2000)の分類区分に従うと非基点分岐型(III型)に属する.すなわち本種の巣は,主坑のさまざまな場所から側坑が分岐し,その先に1つの育房が作製されるタイプであった.主坑および巣口の直径はいずれも4.45mm,主坑長は90mmであった.主坑は鉛直方向に屈曲することなく掘削されていた.育房はナス型で,内壁はハチの分泌物でコーティングされていた.育房全長は平均8.48mm,最大幅は平均4.75mmであった.育房数は全9個で,短い側坑(平均:5.99mm,最小−最大:3.73−11.67mm)を介して主坑に接続されていた.育房内の幼態ステージは卵および若齢幼虫であった.作製順は育房内の幼態ステージからprogressive typeと推察された.花粉団子は扁平な球形で最大直径は3.78mmであった.



8.Lasioglossum sp.1

1)調査地の概要
図22. ソン・クル湖へ至る道路

図22. ソン・クル湖へ至る道路
図23.営巣地の裸地

図23.営巣地の裸地

 本種の巣は2014年6月14日に,ナリン州ナリン市から西へおよそ80kmに位置するアク・タル村からソン・クル湖へ至る途中の村,ジャンジー・タラップ村で発見された(北緯41度28分,東経75度1分,標高1740m).ナリン市からアク・タル村へ至る一帯はナリン川沿いの乾燥地で,一部は半砂漠化していた.営巣地(図23)はソン・クル湖へ至る道路(図22)から民家へ延びる幅3mほどの小道とイガマメが栽培されている広大な牧草地の間にある水路脇の土手(高さおよそ0.5m)であった.巣は土手の一角にある植生が疎らな裸地状のゆるやかな斜面(およそ6mラ6m)にあった.この斜面には本種の他に少なくともコハナバチ類2種およびギングチバチ類1種の巣があった.営巣密度は極めて高く,20〜30巣/屬砲眞した.土壌は砂質で,土中に礫などは見られなかった.

2)巣の構造

 発掘した巣は2巣で(巣1と2),在中メス数はいずれも1個体であった.巣の構造はSakagami & Michener(1969)の巣型分類のIaに該当した.すなわち主坑は側坑(長さ:平均9.09mm,直径:平均2.36m)を介して主坑に接続し,育房は側坑の先に1個作製されるタイプであった.主坑の長さは125mm(巣1)および200mm(巣2)で,鉛直方向にほとんど屈曲することなく掘削されていた.巣口および主坑の直径は,それぞれ平均で1.79mmと2.88mmであった.第1育房は巣口から85mm(巣1)と76mm(巣2)にあった.
育房はコハナバチ類に典型的なナス型で,頸部を除き内面は滑らかに磨かれ,分泌物によるコーティングが施されていた.育房の各部サイズは次の通りである(いずれも平均).育房口直径:1.98mm,育房全長(長軸長+頸部長):5.47mm,最大幅:2.91mm.育房数はいずれも3個で,作製順は不明である.育房内ステージは,最も進んだものでも卵で,他は作製中や貯食中であった.このことから発掘時はまさに営巣活動が開始された直後であったものと判断される.なお,巣2からは巣口から25个琉銘屬念號疾廖陛擇能偲兇気譴晋鼎ぐ號次砲発見された.これは前の世代が作製した育房と考えられることから,本種は多化性であるのかもしれない.





図24.ソン・クル湖へ至る峠道

図24.ソン・クル湖へ至る峠道

図25.巣が発見された裸地

図25.巣が発見された裸地

9.Lasioglossum sp.2

1)調査地の概要

 本種の巣は2014年6月11日に,ナリン州ナリン市から西へおよそ80kmに位置するアク・タル村からソン・クル湖へ至る峠道の道路沿い(北緯41度39分,東経75度1分,標高2780m,図24)で発見された.営巣地はソンクル湖(標高3016m)から吹き降ろす風の通り道となっており,調査中に雹がぱらつくなど,天候がしばしば急変した.発掘した巣は谷間に面した道路脇の平坦なガレ場(50×30m)の一角で発見された.土中には,大小さまざまな岩石が堆積していた.植生は疎らながら地表をカバーしていたが,巣が発見された辺りは裸地状であった(図25).巣はこの営巣場所のほかにも,放牧された牛が利用する周辺の獣道上で多数発見されたが,いずれも営巣のごく初期のものであった.なお営巣地には別種のコハナバチの巣が混在していたが,発掘はできなかった.

2)巣の構造

 発掘した巣は1巣で,単メス巣であった.巣の構造はSakagami & Michener(1969)の巣型分類のIaに該当した.すなわち主坑は側坑を介して主坑に接続し,育房は側坑の先に1個,作製されるタイプであった.主坑の長さは145mmで,鉛直方向に屈鉛直方向に屈曲することなく掘削され,巣口からおよそ100mmの位置で土中の小石を避けるように湾曲していた.巣口および主坑の直径は,それぞれ平均で2.93mmと4.56mmであった.第1育房は巣口から100mmの位置にあった.
育房はコハナバチ類に典型的なナス型で,頸部を除き内面は滑らかに磨かれ,分泌物によるコーティングが施されていた.育房の各部サイズはいずれも平均で,育房全長が9.94mm,最大幅が5.93mmであった.育房数は4個で,作製順は不明である.育房内の幼態ステージは,最も進んだもので中齢幼虫であった.花粉団子は上下に扁平な球形で底面はやや平であった(平均長径および短径:4.74×4.01mm).





10.Anthophora sp. 5

1)調査地の概要

図26.ベッシュ・サライ川

図26.ベッシュ・サライ川

図27.川沿いの営巣地

図27.川沿いの営巣地

 本種の巣は2014年6月12日に,ナリン州ナリン市から西へおよそ60kmに位置するベッシュ・サライ川の川岸(北緯41度23分,東経75度1分,標高1740m)で発見された.ベッシュ・サライ川は川幅80mほどもある河川ではあるが,調査を行った時期は水量に乏しく,幅3〜4mほどのわずかな流れが見られるのみであった(図26).巣は浸食された左岸の川岸(高さ約1m×長さ約50m)の一角にあった.営巣場所は礫混じりの砂質で,ほぼ直角の斜面であった(図27).
図28.主坑と末端部の育房

図28.主坑と末端部の育房
図29.特徴的な巣塔

図29.特徴的な巣塔


2)巣の構造

 発掘した巣は2巣であった.巣はほぼ垂直の斜面に対して水平方向に30〜50个曚彪々し,そこから下方へほぼ90度の角度で斜面に対して平行におよそ30亰,蟆爾欧蕕譴討い拭スF擦遼端には育房が1個作製されており(図28),分岐坑は見られなかった.坑道の直径は8−9个任△辰拭グ號爾呂笋篋拂垢っ型で,主坑との境目は狭められた頸部が存在した.この頸部の直径は平均6.68mmで,育房の全長は11.29mm,最大幅は8.56mmであった.育房は掘削した主坑の末端部に土を運び入れて形成されるらしく,2−3个稜い育房壁が確認された.頸部も同様に形成されていた.育房内壁は頸部までハチの分泌物によるコーティングが認められた.育房はいずれも貯食中で,ペースト状の花粉および花蜜の混合物が底部に押し固められていた.本種の巣口には特徴的な巣塔(turret)があった.巣塔は長さ20−30个如ぜ侈未料禪から下方に向かって緩やかにカーブし,入口は下方に面していた.また基部から先端部に向かってスリットが数本入っていた(図29).
                             
                             
    
                           
                          


11.Megachile sp.

1)調査地の概要

図30.イガマメの牧草地

図30.イガマメの牧草地

図31.巣内から得た育房

図31.巣内から得た育房

 本種の巣は2014年6月17日に,イシククル州カラコル市から西へおよそ25kmに位置するヘアリーベッチの牧草地内(北緯42度24分,東経78度6分,標高1700m,図30)で発見された.牧草地はイシククル湖東端のカラコル市と西端のバルイクチ市をイシククル湖南岸沿いに結ぶ幹線に沿って広がっていた.巣は牧草地内の植生がやや疎で地表面が露出した場所にあった.土壌は乾燥した砂地であった.

2)巣の構造

 発掘した巣は営巣中の1巣であった.巣口は円形で直径は4.5mmであった.主坑は地表からおよそ40伉度までほぼ垂直に掘削され,その先は緩やかにS字状のカーブを描いて屈曲していた.地表から最深部までは62mm,直径は4.5mmであった.坑道には底栓はなかった.育房は水平か,わずかに傾斜していた.育房数は3個であった.育房は他のハキリバチ属同様,葉片で形成されていた(図31).葉片源は全ての育房で同じで,おそらくイガマメが使用されているものと推察された.ハキリバチ属の育房はカップとそれを閉鎖するキャップから構成される(前田ら,1999).前田ら(1996)はハキリバチ属で使用される葉片を,そのサイズと形状から大型卵形葉片(カップ外壁),小型卵形葉片(カップ内壁,入口空室の充填),円形葉片(カップ底壁),正円形葉片(キャップ内壁,入口空室の充填,入口栓),準円形葉片(キャップ外壁)と区分している.このうち本種からは,大型および小型卵形葉片,正円形葉片が確認された(図32).それぞれのサイズは次の通りである(いずれも平均値).大型卵形葉片:11.47×5.92mm(長軸長×短軸長),小型卵形葉片:7.12×4.60mm(長軸長×短軸長),正円形葉片:5.63mm(最大部の直径).それぞれの枚数を大型,小型,正円の順に育房ごとに示すと,第1育房は9,0,2枚,第2育房は8,1,2枚,第3育房は10,2,2枚であった.正円葉片はいずれの育房ともに,キャップに使用され,2枚を重ねて使用されていた.また小型卵形葉片は極めて少なく,これらは育房底部に使用されていた.カップを形成する大型卵形葉片は原則として葉の先端部を育房底部に向けて配置され,先端部は緩やかに屈曲されて育房底を形成していた.



図32.育房に使用されていた正円形葉片(上段2枚)と大型卵形葉片(中段および下段)

図32.育房に使用されていた正円形葉片(上段2枚)と大型卵形葉片(中段および下段)


おわりに

 今回,発掘した巣はヒメハナバチ科1種,コハナバチ科5種,ハキリバチ科1種,ミツバチ科5種の計12種であった.いずれも断片的な記録ではあるが,標高2800m付近で営巣するコハナバチ類など,山岳地帯特有の種の生態を捉えたものもあり興味深い.今後,専門家に協力を仰ぎ発掘した種の種名が明らかにしつつ,これらの種の知見の集積に努めたい.